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大阪家庭裁判所 昭和57年(家)1333号 審判 1982年5月21日

申立人 山藤照子

主文

本件申立を却下する。

理由

一  申立人はその氏「山藤」を「赤井」に変更することの許可を求め、申立の実情として要旨次のとおり述べた。

1  申立人は昭和五四年八月二三日夫山藤吉次と協議離婚し、同日戸籍法第七七条の二により離婚の際に称していた氏(以下婚氏という)を称する届をなし爾来「山藤」の氏を称してきた。申立人がこのような途を選んだのは職場や友人に離婚の事実を知られることを防ぎ後日適当な時期に婚姻前の氏「赤井」(以下旧氏ともいう)に戻る考えからであつた。

2  そして離婚数ヶ月後からは、「赤井」を職場その他私的な生活領域において使用しはじめて今日に至つた。よつて、現在では公的には「山藤」私的生活では「赤井」の併用となり不便を来している。実家の父母や叔母たちも申立人の今後の永い将来を考え「赤井」に復することを望んでいる。

二  ところで、離婚によつて復氏すべき者が婚氏の継続使用を選択しながら、その後婚姻前の氏に変更しようとする場合でも戸籍法一〇七条一項に定める家庭裁判所の許可を得なければならぬものであることはいうまでもないが、家庭裁判所としてはその許否を決するにあたつては申立人のいう申立の実情に照らしてそれが同条に定める「やむを得ない事由」にあたるか否かを審理しなければならないのであつて、同じ戸籍法に定める名の変更の場合における「正当なる事由」と異り厳格性が要求されるのは、氏が単なる一個人の呼称の上にとどまらず、これが戸籍の根幹として機能し、またそれによつて日常生活の構成単位として把握されている現代社会において安易にこれを動揺させることがあつては無用の混乱と不信を招くおそれなしとしないことによると解されるからである。申立人のいうように離婚の事実を、一時期かくすために婚氏を称し、いわゆるほとぼりのさめた頃にまた旧氏に復することを認めようとか、また旧氏に復することが望ましいとかの趣旨で戸籍法七七条の二の立法がなされたものではないと当裁判所は解する。

三  申立人のいうように離婚後数ヶ月して勝手に通称として旧氏「赤井」を使用し、一方公的生活面では戸籍上の婚氏「山藤」を称しては混乱を招くであろうことはそのはじめにおいて予見しうべきことであり、また今後の永い将来にわたつて、いま全く関係のない前夫の氏を称して生きてゆくことの苦痛ということも理解できないではないが、そのようなことをあれこれ思いめぐらせるため、熟慮させるためにこそ法は三ヶ月間の届出期間を設け、あえてその上で婚氏を称することを選択した者のみに特例的にそのように扱うと定めたのであつて、何の関係もない姓を称することを強制されたということはできず、一旦その途を選んだ者の前叙のようなその場その場の便宜で戸籍を二転三転させることは認められるところではない。一般の氏の変更の場合と戸籍法七七条の二の届をなした後始末の場合とを分けて、後者を特にゆるやかに解すべきとするいわれはない。

四  よつて本件申立はその理由がないものと認め主文のとおり審判する。

(家事審判官 岩川清)

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